宵越しのカネはもたないというような考えで、自分の子分に、いっぱい、いっぱいおごってあげる経営者がいるそうだ。いるとする。
その人について語る人は、「人にあたえると、おカネが入ってくる」というようなことを言う。まあ、これ、セットなんだよ。
けど、じゃあ、自分の子分に、いっぱいいっぱい、おごってあげる人のカネはどこから出てくるのか?
けっきょく、自分の従業員から吸い上げたカネなのである。なので、けっきょくは、あたえるというよりも、うばっている。
基本的には、子分というのは、その会社の上層部の人だ。上層部の人を社長がさそって、ものすごく豪華なレストランで食事をするのである。食事代を、社長が払うので、上層部の人に、おごってあげたということになる。
食事に招待されてない、一般の従業員から、ちょっとずつ、搾取したカネを使って、上層部の人におごってあげているのである。こういうことを「人にあたえると、おカネが入ってくる」というような「美談」にしてしまう。「人にあたえると、おカネが入ってくる」という文も、「Xをすれば、Yになる」という構造をたもった文だ。
人にあたえる人と、人にあたえない人がいるとする。人にあたえる人は、一〇〇%の確率でおカネが入ってくるということなのだ。人にあたえる人のうち、一〇〇%の人に、おカネが入ってくるということなのだ。しかし、ほんとうは、そうではない。命題として考えるなら、「人にあたえると、おカネが入ってくる」という命題は、『偽』なのである。
しかし、「おカネが入ってくるという印象をあたえる」のである。あくまでも、「印象」なんだけどね。そりゃ、子分は、おごってもらったので、社長に対していい印象を持つと思うけど、もとのおカネはどこから出てくるのかということだ。
手短に言うと、搾取されている従業員は、上層部の人に、おごってあげることが、できない。
毎回、豪華なレストランで、上層部の人に、おごってあげることができるのは、社長だけなのである。搾取されている従業員だって、一回ぐらいは、上層部の人、全員に、豪華な料理をふるまうことができるかもしれない。
かもしれないけど、毎回は続かないし、あんまりカネがない人が、生活費をすべてなげうって、他人におごってあげるということは、考えにくい。ようするに、やろうと思えばできることかもしれないけど、生活費のことを考えると、非常にやりにくいことではある。
ようするに、そういうふうに、豪華な料理をおごってあげることができない人がいるのだ。その人のところには、カネが入ってこないということになる。
いや、そりゃ、搾取されたあとの給料をもらっているので、すこしはカネが入ってくることになっている。
けど、そんなに、毎回、豪華な料理を、複数の人にあたえられるようなカネは入ってこないわけ。めぐまれている人はあたえやすいのだけど、めぐまれてない人は、あたえにくいんだよ。条件がいい人はあたえやすいけど、条件がわるい人は、あたえにくい。
けど、条件については、これまた、無視した言い方になっている。
手短に言ってしまうと、こういう美談は、あたえにくい人をおいつめるのである。手短に言ってしまうと、こういう美談は、条件が悪い人をおいつめるのである。「あたえないから、おカネが入ってこない」ということになってしまう。
まあ、これ、こういうことを言えば、「あたえる」というのは、なにも豪華な料理にかぎったことではないということを言いかえしてくると思う。かたちのあるものではなくても、親切な行為でもあたえればいいということを、言いかえしてくると思う。
けど、親切な行為に関しては、『自分が親切にしてやりたいことをやってやる』ということになってしまうので、押しつけがましい行為になってしまう確率があがある。親切な行為をしてやろう、あたえてやろうと思っていると、不自然さが増すのである。そう思わないで、親切にする場合よりも、不自然さが増す。
まあ、ともかく、「あたえるとはいってくる」という思考なのだけど、これまた、抽象度が高い話なのだ。
しくみというのが成り立っている。条件が成り立っている。
なので、しくみや条件を無視して、抽象的な話をした場合、条件によっては、まずいことになる可能性がある。
たとえば、「おカネを使えば使ったぶんだけ、おカネが入ってくる」というようなことを言ったとしよう。おカネが入ってくるしくみをもっている人が、おカネを使った場合、おカネを使うかどうかに関係なく、おカネが入ってくる。
おカネが、大量に入ってくるしくみをもっている人は、おカネを使うか、使わないかに関係なく、おカネが大量に入ってくる。おカネが入ってくるしくみをもってない人は、おカネを使うかどうかに関係なく、おカネが入ってこない。
おカネを使う量と、おカネがはいってくる量がつりあっているわけではない。
ところが、「おカネを使えば使ったぶんだけ、おカネが入ってくる」という文は、あたかも、おカネを使う量と、おカネが入ってくる量がつりあっているかのような印象をあたえる。
この前提は、まちがっている。
おカネを使う量と、おカネが入ってくる量がつりあっている場合もあるけど、おカネを使う量と、おカネが入ってくる量がつりあってない場合もある。おカネを使うことで、常に、おカネを使う量と、おカネが入ってくる量がつりあうようになるのかというと、ならない。おカネを使うことには、そんな力……つりあわせるチカラ……は宿ってない。
「おカネを使えば、使った分だけおカネが入ってくる」ということについて語ったわけだけど、ここで語ったことは「おカネをあげれば、あげた分だけ、おカネが入ってくる」ということにも成り立つ。
おカネをあげることには、そんな力……つりあわせるチカラ……は宿ってない。
あげる分と、はいってくる分がつりあうことはあるけど、それは、あたえたことにより発生する……つりあわせるチカラが働いているからではない。たまたま、あげた金額と入ってきた金額がつりあっただけだ。つりあわない場合だってある。むしろ、つりあわない場合のほうが多いだろう。
* * *
ちょっと、関連して、言霊について語っておく。
たとえば、「おカネが入ってくると言えば、おカネが入ってくる」ということについて、考えてみよう。 「おカネが入ってくると言えば、おカネが入ってくる」のだから「おカネが入ってくる」と言えばいいということになる。
「おカネが入ってくる」と言うことは、有効な解決方法なのか、無効な解決方法なのか?
無効な解決方法だ。
どうしてかというと、「おカネが入ってくる」と言っても、おカネが入ってこないからだ。「おカネが入ってくると言えば、おカネが入ってくる」と言っている言霊主義者だって、「言うこと」でおカネが入ってこないということことは知っている。
だから、「おカネが入ってくると言えば、おカネが入ってくる」と言っている、多数の言霊主義者だって、現実世界では従業員として、働いて、給料をもらっている。
多数の言霊主義者だって、「おカネが入ってくる」と言うだけで、おカネがないという問題を解決しているわけではない。自分だって、現実的な問題に関しては、言霊的な解決方法を採用してないのである。
自分だって、現実的な問題に関しては、言霊的な解決方法は無力だということを知っているのである。だから、「おカネが入ってくる」と言うだけで、おカネがないという問題や、おカネがたりないという問題を解決しようとしない。
けど、人に言うときは「おカネが入ってくると言えば、おカネが入ってくる」と言ってしまう。「これが真実だ」と言ってしまう。真実じゃない。嘘だろ。
もちろん、「おカネが入ってくる」と言ったあと、年金が自分の口座に振り込まれるということはある。この場合は、働いてないけど、おカネが入ってくる。「おカネが入ってくる」と言ったから、おカネが入ってくるようになったのか?
ちがうでしょ。
ある年齢にたっしたので、年金が、振り込まれるようになっただけでしょ。
「言ったから」じゃないのである。
言ったあと、年金が振り込まれた。それだけだ。
年金というしくみを利用しただけだ。
言った「から」じゃない。
* * *
あっ、そうだ。もとの話だけど、あたえるのが好きなら、搾取しないで、「もとのカネ」を従業員にあたえればいいんじゃない。もとのカネというのは、従業員が搾取されないときのもとのカネという意味だ。
* * *
ところでさぁ……。
自分がいくら年金をもらえるのかを気にしているのに、「過去は関係がない」と言う人がいるんだよね。
過去?
過去、関係、あるじゃん。
過去は関係があるでしょ。過去において、いくら年金保険料を払ったかで、現在もらえる年金の額、あるいは将来もえらる年金の額が決まるんでしょ。
過去、関係あるでしょ。
なんで、過去は関係がないという話になるのか?
なぜ、過去は現在に影響をあたえないという話になるのか?
自分が、しっかり、過去のことを気にして、現在や将来について語っているのだから、過去は関係があると認識しているんだよ。
どうして、人に言うときは、「過去は関係がない」「過去は現在に影響をあたえない」という話になってしまうのか?
意図があるからなんだよ。
意図はともかくとして、嘘はいけないよ。
影響があるから影響がある。
過去は現在に影響をあたえる。
過去は現在の状態に影響をあたえる。
どうして、こういうことを無視してしまうのか?
まあ、意図があるからなんだけどね。嘘はいけない。
ちなみに、国民年金の場合は、年金保険料を払ってなくても、半額(老齢基礎年金満額の半分)は、もらえる。
だから、過去は関係がないか?
いやいや、それだって、ちゃんと申請しなければもらえない。ちゃんと申請したという過去があるから、半額だけど、もらえる。
過去?
過去は関係がない?
過去、関係、あるじゃん。
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「言えば言ったことが現実化する」と「過去は関係がない」。
どっちも、まちがっている。両方ともまちがっている。