たとえば、六五歳の人が、「年齢なんて関係がない」と思っていたとしよう。
けど、相手がある話では、相手がどう思っているのかということが、重要なことになるのである。本人としては、年齢という条件を無視して、活動しても、相手が年齢という条件を重視しているのであれば、相手の基準で、判断をするわけだから、相手の判断は、実際にしょうじる出来事に影響をあたえる。
たとえば、六五歳の男性であるAさんが、ある企業の従業員募集に、応募したとする。Aさんは、「年齢なんて関係がない」と年齢という条件を無視した。
しかし、相手側の企業における人事担当者が「六〇歳までの男性を希望しているので、六五歳の男性は従業員にはできない」と思っていたとする。
その場合、六五歳の男性は、条件を無視したけど、相手は条件を無視しなかったということが、実際の出来事に影響をあたえる。年齢という条件を無視して応募したけど、採用されなかったという出来事が発生する。
条件は、六五歳の男性であるAさんの気持ちとは関係なく、Aさんが採用されるかどうかという現実の出来事に影響する。だから、Aさんの気持ちだけを考えても、無理だということになる。
ところが、説得者は、説得される側のいろいろな条件を無視してしまうのである。
そして、「条件なんて関係がない」と言ってしまう。
けど、Aさんが、たとえば、六五歳であるということは、Aさんが説得者に話したから、説得者がそういうふうに認識しただけのことなのである。
これは、どういうことかというと、こういうことも、「過去の出来事」が影響をあたえているということになる。
まあ、Aさんが言ったことが真実である場合は、実際に、Aさんの属性が、Aさんが言ったとおりのものであるということになる。
けど、それを(説得者が)知りえたのはどうしてかというと、過去においてそういう情報をAさんが言ったからだということになる。そういうレベルのことですら、「過去の出来事」は重要だ。説得者が、説得するときの判断に影響をあたえているのだから、もちろん、過去の出来事が現在の判断に影響をあたえているということになる。
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言霊思考は、その人がその言葉を言ったかどうかだけを問題にするのである。「言った」という条件と、「言わなかった」という条件だけが、現在における「結果」あるいは、未来における結果に影響をあたえるのである。「言ったか言わなかったか」ということだけしか考えない。ほかの条件はすべて、無視する。積極的に、無視する。ほかのどんな条件もないことになっている。
引き寄せ思考は、その人が、引き寄せ行為をしたかどうかということだけを問題にするのである。「引き寄せ行為をした」という条件と、「引き寄せ行為をしなかった」という条件だけが、現在における「結果」あるいは、未来における結果に影響をあたえるのである。「引き寄せ行為をしたか、引き寄せ行為をしなかったか」ということだけしか考えない。ほかの条件はすべて、無視する。積極的に、無視する。ほかのどんな条件もないことになっている。
「努力をすれば成功する」という思考は、「努力をしたか」どうかだけを問題にするのである。「努力をした」という条件と、「努力をしなかった」という条件だけが、現在における「結果」あるいは、未来における結果に影響をあたえるのである。「努力をしたか努力をしなかったか」ということだけしか考えない。ほかの条件はすべて、無視する。積極的に、無視する。ほかのどんな条件もないことになっている。
ところが、ある人は、ある人の条件をかかえている。言霊主義者が無視しても、引き寄せ主義者が無視しても、努力成功主義者が無視しても、条件が成り立っている。もう、無数の条件が成り立っていると言っても過言ではない。
無数の条件のうち、重要な条件がいくつかある。
そして、無数の条件のうち、相手が重視する条件がいくつかある。
相手が重視する条件は、「本人」が無視しても、現実の出来事に影響をあたえるのである。言霊主義者が無視しても、引き寄せ主義者が無視しても、努力成功主義者が無視しても、本人がかかえている条件が、本人における「現実の出来事」に影響をあたえる。
この(本人がもっている)現実感覚を、言霊主義者、引き寄せ主義者、努力成功主義者は、一時的にマヒさせる。本人の現実的な感覚をマヒさせて、それぞれの条件だけが、現実の出来事に影響をあたえると言い切るのである。こういう人たちは、ある種の詐欺的な説明で、人をだましている。