きちがい兄貴は、融通が利かないのである。どれだけ、こっちがこまっていても、ガン無視して、やり続ける。「一〇分間だけ、特別にゆずってやる」ということができない人間だ。一〇噛んだろうが、絶対に、自分が相手のために我慢するのは、いやなのだ。そして、こういう態度だと、どれだけ、ピンチなときも、やられるわけで、対処のしようがなくなる。それは、パニックになるようなことだし、普通の人であれば、その場で、きちがい兄貴を、殺しているようなことだ。普通の人は、たえられずに、殺している。そういうがまん力が、ぼくの場合、人並みすぐれて、あった。がまん力が強かった。けど、そのぼくですら、けっきょく、がまんのししすぎでだめになった。これ、突き付けられていることが、ちがうのである。普通の人が、「騒音」とか「うるさかった」という話を聴いて、想像するものと、実際にぼくが突き付けられたことが、ちがう。それは、たしかに騒音なのだけど、普通の人が思い浮かべるような騒音じゃない。普通の人は、普段きちがい兄貴が……うちのきちがい兄貴が……どういう感覚で、どういう意地で……ヘビメタを鳴らしているのか、まったくわかってない。融通が利かないということですら、殺人的な意味を持つということがわかってない。繰り返しで、がまん力が内向して、自分のからだがダメになってしまうということがわかってない。能力をうしなってしまうということがわかってない。
「鳴り終わったら、関係がない」なんて言うやつらのことは、殺したくなる。それで、当然だ。殺しはしないさ。だって、張本人のきちがい兄貴のことも、殺せなかった。殺せるわけがない。けど、「鳴り終わったら、関係がない」なんて言う人は、ほんとうに、なにも、なにも、わかってない。