言霊を信じている人は、自分が魔法を使えると信じている人なんだよ。その言葉を、魔法発動の呪文だと考えれば、呪文をとなえれば、魔法を使えるということになるんだよ。
たとえば、「わたしの指さきから、火が出る」と言えば、火が出るんだよ。言ったことが現実化するわけだからそうなるんだよ。言ったとおりになるのだからそうなるんだよ。言ったら、言ったとおりになる……。それが言霊理論だ。
おなじことだけど、内容を「詠唱する」とその通りになるのである。そういう力を自分がもっていると言っているのである。言霊の力で、そうなったと言っている人は、言霊の力を使うことができると言っているのである。
「内容」が、魔法の力によって、実現化される……のだ。言ったことが、実現化するというのは、言ったことが、魔法の力によって実現化するというのおなじなんだよ。
言ったことが、言霊の力によって、現実化するのだから、言霊の力を魔法の力と言い換えると、そのまま、魔法の力によって、現実化するということになるんだよ。言霊の力と魔法の力はおなじなんだよ。
もちろん、魔法が使えると言っている人が、ほんとうに魔法を使えるわけではない。
もちろん、言霊の力で、自分が言ったとおりになったと言っている人は、言霊の力を使えるわけではない。
そういうことを言う人だって、実際には、言霊の力で問題を解決したことは一回もない。言ったあとに、問題が解決したら、『言ったから、解決した』と思っているだけなのだ。本人が、本人のなかでそう思うのは自由だけど、ひとたび、人に助言をするとなると、問題がしょうじる。嘘を言っているという問題がしょうじる。
ほんとうは、魔法なんて使えないのに、「わたしは魔法が使える」と言うというのは問題がある。ほんとうは、魔法を使ったから、そうなったのではないのに、「魔法を使ったからそうなった」と言うというのには、問題がある。本人は気がついてないけど、嘘を言っている。
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AさんとBさんがいるとする。Aさんは問題をかかえている人。Bさんは言霊主義者だ。
Aさん「じつは、アルファという問題でこまっているんだ」
Bさん「わたしは魔法が使えるんだ。どんな問題も、魔法で解決できる。だれでも魔法が使えるので、Aさんも魔法を使えばいい。『アルファという問題は解決する』と言えば、アルファという問題は解決する。言霊魔法っていうんだ。言えば、言霊魔法のすごい力によって、言った内容が現実化するんだ」
Aさん「それは、すごい。うちに帰ってやってみよう」
Aさんが、うちに帰って「アルファという問題は解決する」と言っても、アルファという問題が解決しなかった。
* * *
Aさん「うちに帰って『アルファという問題は解決する』と言っても、アルファという問題が解決しなかったぞ」
Bさん「言い方が悪いんだよ。こころをこめて言えば、言霊魔法のすごい力によって、問題は解決する。実際、わたしは、その方法で問題を解決した。言霊魔法の力は絶対だ。言霊魔法は宇宙の絶対法則だ」
Aさん「そうか。じゃあ、こころをこめて言ってみるよ」
Aさんが、うちに帰って「アルファという問題は解決する」とこころをこめて言っても、アルファという問題が解決しなかった。
* * *
Aさん「うちに帰って『アルファという問題は解決する』とこころをこめて言っても、アルファという問題が解決しなかったぞ」
Bさん「解決するまで、何回だって、こころをこめて言えばいい。回数がたりないんだよ。自分は言霊魔法で問題を解決したことがある。言霊魔法の力は絶対だ。言霊魔法は宇宙の絶対法則だ」
まあ、言霊主義者との会話はこんなことになると予想できる。
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言霊の力と、魔法の力は、おなじなんだよ。
言葉には、そういう魔法の力が宿っているから、言えば言ったとおりになるというのが、言霊理論だ。魔法のことを言霊と言っているだけなんだよ。
言霊を使って問題を解決すればいいというのは、魔法を使って問題を解決すればいいということと、おなじなんだよ。
「自分は魔法が使える。魔法の力は絶対だ。あなたも魔法が使える。魔法を使うには、言えばいい。さあ、魔法を使って問題を解決しましょう」……。こんなことを言っているのが、言霊主義者だ。言霊主義者は、まじめに言っている。嘘を言っているつもりがない。けど、嘘なんだよ。人をだますつもりはないのだけど、人をだましている。
「魔法」と言ってしまうと、こどもっぽくて、嘘がばれるけど、「言霊」と言うと、なんかそれっぽくって、嘘がばれない。それだけのことだ。「なんかそれっぽくって」というのは、まあ、宗教っぽい感じがするということだ。
これ、カルト宗教とおなじなんだよ。トリックがある。
けど、組織的な教団をつくっているわけではないので、全体がソフトだ。べつに宗教団体に入らなくても、本で読める。べつに単行本を読まなくても、雑誌やウエブにそれらしいことが書いてある。
そして、これが一番重要なことなのだけど、幼児的万能感は、だれにでも残っている。幼児的万能感が『言霊思考』の本体だ。幼児的万能感が残っていると、言霊を信じてしまう。「魔法」と言うと、幼稚な感じがするので、信じることはできないけど、「魔法」を「言霊」と言い換えれば、幼稚な感じがしないので、信じることができる。
言霊を信じている人だって、現実的な問題に関しては、言霊的な解決法を使ってないのである。それは、言霊を信じている人が、現実的な問題に関しては、魔法的な解決法を使おうとは思わないのとおなじだ。「魔法」なんて使えないから、魔法で問題を解決しようと思わない。ひとごとであったり、夢や希望といった、現実とは距離があることにかんしては、現実的な問題ではないので、言霊思考をしてしまう。『言霊で、解決できるんじゃないか』と思ってしまう。『自分は、言霊という魔法を使えるのではないか』と思ってしまう。