Aさんにとってあきらかなことと、Bさんにとってあきらかなことはちがう。たとえば、Aさんが、自分の部屋にいて、この部屋には蚊がいないということを、確認したとする。Aさんにとっては、蚊がいないということは、あきらかなことだ。その部屋には、窓がないか、あるいは、窓はきっちり閉めてあって、蚊がはいってくることはないとする。その場合、Aさんの認知は正しいということになる。しかし、Bさんは、条件を無視してしまう言霊主義者だとする。言霊主義者は、相手にとってあきらかな条件でも、勝手に無視してしまう。無視してしまえば、本人のなか……その言霊主義者のなかでは「ない」ことなのである。あるいは、結果に影響をあたえないことになのである。Aさんにとって、この部屋には蚊がいないということがあきらかであっても、Bさんは、蚊がいないという条件を無視ししたとする。言霊主義者は、「どんな条件でもこうだ」ということになれているので、普通に、相手の条件を無視する傾向がある。だから、Aさんにとってはあきらかな「部屋に蚊がいない」という条件を無視して、「蚊に刺される」と言えば、蚊に刺される」と自信をもって言うことができる。ただ単に、相手の事件を無視して、ありえないことについて語っているのだけど、本人は、認めない。
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ヘビメタ騒音にさらされて七年間生活すると、通勤できなくなるということは、ぼくにとって「あきらかなこと」なんだよ。経験的に「あきらかなこと」であるわけ。けど、ほかの個体は、そういうことを経験してない。経験的に「あきらかなこと」であるということを理解できない。そうすると、言霊主義者にとっては「できると言えばできる」ことになってしまうのである。また、言霊主義者ではない者にとっても、経験的にわからないことだから、「そんなことはないのではないか」と思ってしまうことなのである。ぼくとしては、まったく、なっとくが、いかない。なっとくがいかない。なっとくがいかない。みんな、七年間生活すると、通勤できなくなるということを理解しない。経験がないから、理解しないのだろうけど、ともかく、理解しない。こっちにとっては成り立っている条件なのに……いやというほど思い知らされている条件なのに……他人は、そういう条件を無視して、バカげたことを言うのだ。無理なことを言うのだ。けど、他人は、そういう条件を無視しているということを、認めない。無視しているのだけど、無視しているということ自体がわからない。