蚊のいない部屋で「蚊に刺される」とどれだけ言っても、蚊に刺されない。言ったことが、現実化しない。蚊のいない部屋で「蚊に刺される」と言うと、どこからともなく、蚊が出現して、蚊に刺される……。そんなことはない。「蚊がこの部屋のなかに出現する」と言うと、蚊が出現する……。そんなことはない。
蚊に刺されると、刺されたところが隆起して、かゆくなる。これは、物理的な反応だ。蚊が血をすいやすくするために出した液と、体の反応だ。免疫反応なのである。
蚊がいないところで、「蚊に刺される」と言っても蚊に刺されないということを言ったけど、自分の意思では、蚊に刺されたときの反応を引き起こすことができないのだ。
実際に蚊に刺されたから、物質が体の中に入り、からだの中に入った物質と自分が供給した物質の物理的な運動により、刺されたところが隆起する。ふくらむ。このふくらみを、自分でつくることができるのかと言うと、できない。
言えば言ったことが現実化すると言っているけど、蚊に刺されるということですら、現実化しないのだ。
そして、蚊に刺されたように肌が隆起する言っても、隆起しない。蚊に刺されるということだけではなくて、蚊に刺されたようなかゆさを感じるとか、蚊に刺されたような隆起ができるということですら、言っただけでは、現実化されないのだ。
「かゆいと言うからかゆくなる」と言霊主義者は言うけど、ほんとうは、「かゆい」と言っても、かゆくならない。言霊主義者が、主張にあわせて「かゆくなった」と自己申請するだけだ。
* * *
「蚊に刺されるまで何回でも言えばいい」と妄想的言霊主義者は言うのだ。
「一回言っても、願いがかなわないのであれば、願いが叶うまで何回でも言えばいい」……こんなことを言う。
蚊のいない部屋にいて、「蚊に刺される」と何回言っても、蚊に刺されない。これは、決まっている。
こういう無理なことを、言霊主義者は、ほかの人におしつける。
どれだけ言ったって、現実化する要素がないところでは現実化しないのに、要素なんて関係なく、言えば現実化すると主張する。どんな条件だって、どんな状態だって、「言えば、言ったことが現実化する」と言うのだ。
悪質な言霊主義者が、ほかの人に「むだな努力をさせる」のだ。むだな努力。嘘八百。根本に嘘があることを言って、ほかの人にむだな努力をさせようとする。
* * *
ついでに言っておくと、意志教徒は、自分のからだのことなら、自分の意志で制御できると思っているのだけど、意志教徒にしたって、蚊に刺されたようなかゆさも、蚊に刺されたときの物質の運動を……自分の意志でつくりだすことができない。これは、自分のからだのなかを制御できないということだ。物理的な反応を、自分の意志で制御できない。
* * *
もう言ったことだけど、言霊主義者だって、普段は、蚊に刺されたあと、かゆいと思っているのである。かゆくないのに、かゆいと言ったから、かゆくなった……と思っているわけではないのである。かゆくないのに、「かゆい」と言うと、かゆくなる……そんなことを考えているわけではない。
蚊がいないところで「蚊に刺されてかゆくなる」と言うと、蚊に刺されるということが、言霊の不思議な力によって現実化され、さらに、言霊の不思議な力によって、かゆくなるということが現実化されるわけではない。そんなの、言霊主義者だって知っている。
* * *
言霊主義者の意識的な主張は「かゆいと言うから、かゆくなる」ということだ。ところが、言霊主義者だって、蚊に刺されたあと、かゆいと感じて「かゆい」と言っているのである。それには、蚊の出す液とからだの反応が必要だ。それは、「言ったから」起こることではないのである。
「かゆいと言うから、かゆくなる」というのは、かゆいと言ったことが原因で、かゆくなるということを言っているということになる。ところが、普段は、自分の身に起こったことにかんしては、普通に、ほかの原因でかゆくなったと思っているのだ。かゆくないときに、「かゆい」と言うと、「かゆい」と言ったので、「かゆい」と言ったことが原因になって、実際にかゆくなると、言霊主義者は言っているわけだけど、普段は、言霊主義者だって、そんなことは考えてない。
普段は、蚊に刺されてかゆくなったなら「蚊に刺されたから」かゆくなったと思っている。刺されたあと、かゆくなるのである。蚊に刺されるまえに、蚊に刺されてかゆくなると言ったから、蚊に刺されるということが現実化して、かゆくなったのではない。
だいたい、蚊に刺されるとかゆくなるということは、現実化したあとに、学習することなのである。ようするに、蚊に刺されるとかゆくなるいうことを経験したあとの話なのである。
そして、蚊に刺されるとかゆくなるということは、蚊の出す液の性質とからだのしくみによって決まっている。「言ったかどうか」とは関係がない。
「言ったから」かゆくなるのか? そんなことはない。
「かゆくなると言った」というとが原因で、かゆくなるのか? そんなことはない。
* * *
おなじことだけど、言霊主義者は頑固に認めないのでもうちょっと、説明しておく。赤ん坊のころ、かゆいという言葉を知らなかったとする。けど、赤ん坊でも、蚊に刺されれば、からだのしくみが正常なのであれば、のちに、「かゆい」と表現するような感覚がしょうじる。これは、何度も言うけど、からだのしくみによって引き起こされる反応だ。「かゆい」という言葉を知らなくても、「かゆい」という感覚はしょうじている。
竹藪のなかに入るまえに、「蚊に刺されてかゆくなる」と言った場合について考えてみよう。この場合は、蚊に刺される可能性があり、蚊に刺される確率が非常に高いので、「蚊に刺されてかゆくなる」という推量があたりやすい状態になっている。この場合でも「言ったから」ではなくて、刺されたから、かゆくなっている。「蚊に刺されてかゆくなる」と言ったということが、「原因」ではなくて、実際に蚊に刺されたということが「原因」になってかゆくなっている。蚊がたくさんいるところにはいっていったのだから、蚊に刺される確率があがっただけだ。蚊に刺されれば、体の反応によって、刺されたところがかゆくなる。「かゆくなる」と言ったことが原因で、かゆくなっているわけではない。