たとえば、自分が水俣病になったとする。きちがい自己責任論者が、しゃしゃり出てきて「すべては自己責任」と水俣病の患者をせめたとする。その場合、水俣病の患者は、やはり、不愉快な気持になるのである。
問題なのは「すべて」というところだ。
他者の人生において発生したことについて、よく吟味することなく、すべては、その他者の責任だと言っているのである。こんなのは、ひどい。
ぼくは、自己責任論については、だいぶ述べているのだけど、「自分を対象にした自己責任論」と「他人を対象とした自己責任論」がある。自分を対象にした自己責任論に関しては、別にどうでもいい。けど、他者を対象とした自己責任論には問題がある。
どうしてかというと、責任の所在について、ひとつずつ、吟味せずに、「その人のせい」にしているからだ。
「他人を対象とした自己責任論者」は、つねに、「人のせい」にして生きている。そして、それは、誤解にもとづく、責任のなすりつけを、含んでいる可能性がある。他者に対して「すべてその他者の自己責任だ」という場合、ほんとうに、その他者の自己責任だと言ってはいけないものが、含まれている場合がある。
たとえば、Aさん、Bさん、Cさんがいたとする。Aさんは、他人を対象とした自己責任論者だとする。そして、Bさんが、水俣病になった人だとする。Cさんは、まあ、水銀を海に流した会社の社長だとする。
この場合、たしかに、Cさんに責任がある。流したという責任がある。汚染魚を食べたのはBさんだから、Bさんの自己責任だとは、勝手に言えない部分がある。
けど、自己責任論者は、すべてをBさんのせいにするのである。そして、Bさんに対して「俺は、すべて自己責任だと思っているよ」と言うのだ。
「自分は、すべて自己責任だとすべてをうけとめる覚悟」があるいい人間だけど、Bさんはそういう覚悟がないダメな人間だと言っているのである。
まあ、だめな人間だというのは、どうして、そういうことになってしまうかというと、BさんがCさんのせいにしているからだ。人のせいにしている。人のせいにすることはだめなことなのだ。
だから、この文脈において、自動的にBさんはだめな人だということになる。だれのせいかということについて、つまり、だれの行為に原因があるかということについて、Aさんは、勝手にBさんのせいにしているのだ。
原因に関する判断がまちがっている。どうして、Cさんの行為が問題にならないのか。
Cさんの責任を追及するのは、ともかくとして、Bさんの責任を追及するのは、よくないことだ。
たとえば、Dさんと、Eさんと、Fさんがいたとする。Dさんは、他人を対象とした自己責任論者だとする。Eさんが、通り魔だとする。Fさんは、通り魔に刺された人だとする。Fさんは、普通に、普通の道を歩いていただけなので、Fさんには、責任がない。
これが、たとえば、Fさんが、常に、Eさんをいじめていた場合は、刺されるということにかんして、責任がある。「刺される」というのは、Eさんに、Fさんが「刺される」ということだとする。この場合は、Eさんは通り魔ではない。話を、刺さるまでは、無関係なEさんとFさんにもどす。自己責任論者のDさんは、「すべては自己責任」と言って、刺されたFさんの責任を追及する。刺したほうのEさんの責任は、一切合切、追及しない。
こういう、不公平なことをしている。
「そんなのは、Fさんの責任だ」と勝手に判断して、Fさんの責任を追及しているのである。勝手に、原因についてまちがった判断をして、勝手に、Fさんを追及している。こまったやつである。
すべては自己責任だと考えるのであれば、EさんがFさんを刺したのは、まったく関係がないDさんの責任だと、Dさんは考えるべきなのである。
すべては自己責任だと考えるのであれば、Cさんが、水銀がはいった汚染水を海に流し、Bさんのからだの自由をうばい、Bさんの人生を破壊したのは、まったく関係がないAさんのせいだと、Aさんは、考えるべきなのだ。
「すべては自己責任」なのだからそうなる。
なんで、「すべては自己責任」なのに、他人の責任を追及しているのか?
自分に関係があることと自分に関係がないことを区別するなら、「自分に関係があることはすべて自己責任」と言わなければならない。「すべては自己責任」と言っているのだから、自分には関係がないと判断できることにかんしても、責任がある。
どうしてなら、「すべては自己責任」だからだ。
関係がないことは除外するというのであれば、「すべては自己責任」ではなくて、自分関係してないことは、自分の責任ではないということになる。「すべて」と言ったら、もちろん、自分に関係がないことまで、含んでいる。この世に起こったあらゆることにかんして、責任があるということを意味している。
すべては、自己責任なのだから、Cさんが水銀がはいった汚染水を海に流したのも、自己責任論者のせいだし、EさんがFさんを刺したのも、自己責任論者のせいだ。それは、言い過ぎではないかと思うかもしれないけど、他者を対象にした自己責任論者は、自分に関係がないことまで、他者の責任を追及している。自分に関係がないことまで、すでに、責任追及をしている。