「一秒後に、地球が爆発する」と言えば、一秒後に地球が爆発するのである。そういうことを言いたい気分になっている人が、ひとりいるとする。そのひとりが「一秒後に、地球が爆発する」と言えば、一秒後に地球が爆発するのである。言霊理論が正しければ……。
「一秒後に、みんなの銀行口座に、一〇〇〇万円振り込まれる」と言えば、一秒後に「みんなの銀行口座に、一〇〇〇万円振り込まれる」のである。言霊理論が正しければ……。
けど、そんなことにはならない。言霊理論が正しくないからだ。
「そんなことは言ってない」「希望をもって生きていくことがたいせつなんだ」……だったら、言霊理論などは持ち出さず、「希望をもって生きていくことがたいせつなんだ」と言えばいいだろ。
ところが、「言霊は、すごい力をもっている」「言霊には、すごい力が宿っている」「言ったことが、現実化する」ということを言うのである。
そりゃ、いくつかのことは、「言ったあと」現実化するので、「言ったあと」と「言ったから」を混同する人は、「言ったから」現実化したのだと思うことができる。
なので、生まれの条件に目をむけなくてすむことになる。
けど、言霊理論がはやっているのは、生まれの条件に目をむけさせたくない人たちの、意図かもしれない。ようするに、そういう考えを被支配民がもってくれたほうが、都合がいいので、そういうことをはやらせている……かもしれない。
幼児的万能感は、別に、支配者層が、はやらせたことではないし、支配者層が、人間に、幼児的万能感をうえつけた、わけではない。支配者層は、もともと人間に備わっている「幼児的万能感」を利用しただけだ。
幼児的万能感は、幼児期に達するまでに死んだ人間以外は、みんな持っているものだ。つまり、まあ、赤ちゃんのときに死んだ人をのぞけば、みんながみんな、幼児的万能感をもっている。
そこのところを、うまく利用されているだけだ。
ひとびとが、生まれの条件を無視して、物事を考える状態というのは、「悪い」支配者層にとって、都合がいいことだ。
いまの世の中、普通に暮らしていたら、言霊的な言い分を信じてしまう。けど、それは、まちがっている。使いわけている。トリックがある。
「言霊のすごいパワーのまえでは、生まれの格差なんて関係がない」……こういう言い分が含まれている。
「生まれの格差なんてまったく関係がなく、絶対的な言霊の力が、作用するのである。言霊の力は、絶大なので、生まれの格差なんて関係がない」……こういう言い分が含まれている。
生まれの格差というのは、生まれたときの条件のことだ。「の」の重複になるけど、「生まれたときの条件」の格差ということだ。ここでは、そういう意味で「生まれの格差」という言葉を使っている。別に、「条件の格差」という言葉を、それとなく「生まれの格差」という言葉に言いかえたわけではない。