あの部屋……というのは、きちがい兄貴の部屋だ。「もと」きちがい兄貴の部屋だ。あの部屋に置いてあるものは、精査せずに……全部、おきっぱなしにして、家を売ろうかな。現状で売るというのがあるのかな? 夜逃げをするようにして、引っ越してしまおうか。精査と書いたけど、ようするに、もっていくとものと捨てるものをわけるということだ。ダニがついているものをもっていくとなると、新しいところにダニを導入してしまうことになるから、問題がある。それをさけるために、もっていくものをビニール袋に入れて、そのビニール袋をさらにビニール袋に入れて、それを、冷凍庫に一か月入れておくということを考えている。けど、どのみち、バルサンをやったところにあったものを、ぼくがいじる気になるかというと、いじる気にはならない。安心できない。だいたい、ネズミの糞が本やCDの上にあったとして、それをどけて、上記の処理をしたとしても、いじる気になるか? ここで、捨ててしまうと、手に入らなくなるものというのは、主に、本だ。ヤフー・オークションやアマゾン・マーケット・プレイスなどで、手に入るとは限らない。むかしのものなら、すべてあるというわけではないのだ。中古市場に出てないものもある。
もう、あの部屋に、ネズミがはいった時点で、俺のものは、おしまいだったのか? そうなんだろうな。これ、一階と二階のあいだにある、引き戸のドア……階段のまえにあるドアを……めちゃくちゃに気をつかって、開け閉めしていたのだけど……重たいドアなんだけど、がんばって、開け閉めしていたのだけど……どうしても、いろいろあって……閉め忘れるときがあるんだよな。あれ、「閉めればいい」と考えたときは、軽くできることのように思ったのだけど、じつは、できない。 食べ物を持ち運ぶときは、どうしても、一時的にあいた状態になる。だいたい、食べ物を、一時的にその付近において、すぐに閉めるということができない。そりゃ、そうだろ。スリッパをはいているけど、ネズミエリアを歩いているわけだから、いろいろとよごれている。基本、たとえ、見かけ上、そのエリアにネズミの糞がないとしてもネズミが通ったかもしれないところを、スリッパをはいて歩いている。ドアのこっち側だって、置くとなると、問題がある。たとえ一時的にでも、床や階段のうえにはおけない。昼間、人がいるのに、ネズミがはい出すということはなかった。けど、ひそんではいるんだよな。だから、昼間なら、一時的にドアを切っりと閉めなくてもだいじょうぶかなと思ったりもした。ともかく、一度、一階から二階に食べ物を運んだあと、ドアをきっちり閉めるために、一階におりていくというのが、めんどうくさくて、できなかった。ドアの付近には、食べ物は置けない。それだけではなくて、ほんとうにいろいろと、きっちりと重たいドアをしめるということができないときがあるんだよ。二年間ぐらいは防衛していたんだけど、うまく防衛できないときがあって、そのときに、入られた。一階は、ネズミの侵入をうけていたけど、二階は、ネズミの侵入をふせいでいたときがある。あれはあれで、ほかのこともあるわけだから……ほかのいやなこともあるわけだから、そのことに気をとられて、対応できないときもある。「まあ、昼間だからだいじょうぶか」と思ったりしたので、スキができた。けど、あそこのドアを、通るたびに、完全に閉めるということが、あんなにむずかしいとは思わなかった。考えただけなら、ずっとできそうなことなんだよね。けど、できなかった。やってみないとわからないこともある。考えるのと、実際にやるのはちがう。いろいろな状態があるからね。こっちの精神状態だっていろいろだ。基本、ネズミが出てくるような家に住んでいるわけだし、基本、それをまったく気にしないきちがい的な親と一緒に住んでいるわけだから……そりゃ、いろいろとある。その都度、ドアを閉めるというのは、思ったより、ずっとむずかしいことだった。
きちがい親父は、ネズミの糞のことを一切合切気にしない。これだって、普通の人間としては、おかしいことなんだぞ。きちがい兄貴は、きちがい兄貴の騒音を気にしなかった。これだって、人間としては、おかしいことなんだぞ。普通は、だれに言われなくても、気になる。気にする。ところが、頭のねじがぶっ飛んでいるので、気にしないのだ。頭の回路が普通の人とちがうので、スイッチが入ってしまうと、どれだけ言っても、気にしない。