記憶の残滓、残骸。
あーー、俺はいったいなにをやってたんだろうな。ヘビメタ騒音期間中も、ヘビメタ騒音が鳴り終わったあとも、めちゃくちゃにくるしい。くるしい記憶しかない。暗い気持ちで、さ迷い歩いていた。あとは、寝ていた。どっちもくるしい。
たとえば、まだ気ちがい兄貴がこのうちにいて、ぼくがアパートを借りていた期間があるのだけど、その期間中だって、ヘビメタが鳴っていた。飯代を浮かすために、家に帰ってきてご飯を食べてたのだけど、ご飯を食べているあいだ、「あの」きちがいヘビメタ騒音が鳴っていた。俺の勉強時間をぶち壊したヘビメタ騒音が鳴っていた。家から、アパートに向かうあいだ……アパートから家に向かうあいだ……ふがいない気持ちでいっぱいだ。
みんな、わかってないけど、ほんとうにものすごい音なのである。そして、きちがい兄貴のきちがい頭が、ものすごく頑固な状態で凝り固まっているのである。刺し殺さなければ、あるいは何らかの方法で殺さなければ、絶対にやめさせることができない。そして、きちがい兄貴の音が、気にならなかったかと言えば、気になった。きちがい兄貴が、あの音で鳴らしていて、影響をうけないということがないである。そういう一日が、どれだけつらいか、どれだけくやしいかわかってないと思う。それが何年間も毎日つみかさなっていいわけがないだろ。この時代の、学生なのだから。「家で勉強することができない」「家で勉強すると、いやなイメージが、教科の内容についてしまう」というようなことが、本当の意味でわかってないやつが、なにを、わかっているというのだ。くやしいにきまっているだろ。破滅的な気分になるに決まっているだろ。たとえば、ひとことで「それが何年間も毎日つみかさなって……」と書いたけど、「何年間も毎日」の意味がわかるわけがない。「ヘビメタ騒音なんて関係がない」「ヘビメタ騒音が鳴っていたとしても、過去のことなら関係がない」なんて言うやつは、やっぱり、ぶんなぐりたい気持ちになるんだよ。そして、ぶんなぐらずに帰ってきたということにふがいなさを感じる。「言いきれない気持ち」がしょうじる。まるでわかってないな。どういう状態で、どういうことがもたらされたのか、一倍速で経験してみろ。この部屋で、あの騒音を経験してみろ。「ヘビメタ騒音が鳴っていたって勉強はできる」なんことはないんだよ。まあ、そいつが、ヘビメタ大好き人間ならできるかもしれないけど、そいつにだって「にがてなおと」はあるだろう。ヘビメタの音のでかさで、その音が鳴っていたら、どうなんだよ。あれは、ほんとうに、勉強ができない状態だ。勉強だけじゃないのである。勉強だけじゃない。ともかく、ヘビメタ騒音をあびてしまうと、眠れない状態になってしまうのである。