ヘビメタ騒音で人生がない。
あの女とつきあっておけばよかったのかな。あの女というのは、あの子とはちがう。ぜんぜん、ちがう人。ヘビメタ騒音のことを説明するのがいやだった。無職だというのがいやだった。あっちから近寄ってきたのだから、適当にだまして……いわないで、つきあっておいたほうがよかったのかな。なんか、いつもそんな感じなんだよな。「言いがたいものをかかえている」。あの女の人と会ったとき、ぼくは35歳で、あの女の人は20歳だったんだよな。15歳ちがう。そして、俺が無職……。かっこう悪くて言えないだろ。ヘビメタ騒音で、どうしても、通勤して働くということができなかった。
こういうふうに言うと、ヘビメタ騒音の問題は就職問題のように思うかもしれないけど、それは、仕事にフォーカスした場合の話で、ぜんぜん、ちがう。全部ちがう。これ、なんか、俺が根性を出して?通勤すれば解決しそうな問題に見えるだろ。けど、ちがうんだよ。破滅、なんだよ。一日に4時間、週に3日でも、自殺をするしかないというような状態だった。そういう体力問題、睡眠リズムの問題がなおらなければ、就職したところでおなじなんだよ。これ、ヘビメタ騒音の6年間がどれだけつらいか、わかってない人にはわからないと思う。だから、普通の人にはまったくわからないんだよね。中学3年間、高校3年間すっぽり、ヘビメタ騒音期間のなかに含まれてしまうのだけど、この6年間で、体力問題、睡眠リズムの問題が発生した。俺が根性を出して、中学3年間、高校3年間、計六年間、通学してしまったから、体力問題、睡眠りずっの問題が発生している。根性を出して頑張ったから、からだがめちゃくちゃになっている。もう、高校を卒業した時点で、終わっているんだよね。きちがい兄貴のヘビメタ騒音がどういうものだかわかってない。ヘビメタ騒音すさまじさがわかってない。きちがい兄貴の態度が異常だということがわかってない。ほんとうに頭がおかしい。おやじとおなじように、頭がおかしい。兄貴や親父の頭のおかしさというのは、ほかの人には、これまたわからないことなんだよな。いっしょに住んでないとわからないし、それがもたらす破壊的な効果がわからない。きちがい兄貴の頭がきちがい兄貴の頭だと、たとえば、ヘビメタ騒音問題が持ち上がった場合、絶対に、解決しないのだ。殺さなければ終わらない。殺さなければ、一秒だって静かにしてくれない毎日、ってなんだよ? 家族がそういうことをしているのに、その当の家族が、まったく気がつかないんだからな。言いがたい。そして、親父もそうなんだよ。だから、ダブルで狂っている。だから、ほかの人が余計に理解しにくくなるんだよな。うちの状態なんて、よそのうちの人に理解できるわけがない。きちがい親父の頭の構造がわからないし、きちがい兄貴の頭の構造が゛からない。きちがい親父の頭の構造やきちがい兄貴の頭の構造がわからなければ、全部が、わからない。俺がなにを言っているのか、わからない。どうしたって、常識で考えて、常識的なアドバイスをする。それだと、もっともっともっと、俺が追いつめられることになるのだ。それだって、どれだけ、くわしく説明したって、よその家の人にはわかないんだよな。たとえば、佐藤に、きちがい親父のことやきちがい兄貴のことや、きちがいヘビメタ騒音について説明したけど、佐藤はまったくわかってない状態だった。これが普通の人の反応だ。普通の人なのに、わかってくれた人って、本当に少ないのである。やはり、兄がヘビメタにこって、6か月間ぐらいうるさくした人は、6か月の体験でも、わかっているんだよね。ほかの、佐藤や、その場にいた人はまったくわかってないからな。これが、世間の普通の人の反応だ。俺の説明の仕方が悪いわけじゃないんだよ。きちがい兄貴の狂い方が、常識的な人には、まったく理解できない。きちがい親父の狂い方が、常識的な人にはまったく理解できない。そうなると、常識的な人は「エイリさんがへんなことを言っている」「エイリさんが、えなことにこだわっている」「エイリさんが、無視できる過去の出来事にこだわっている」と思ってしまうんだよ。無視できる過去の出来事ではないということを、説明したって、そいつらは、わからない。絶対に理解しない。日曜日も含めて毎日ヘビメタが鳴っているということが、どういうことなのかわからない。
ダイヤですら、ほんとうのことはわかってないんだからな。時系列的におなじ体験をすればわかるようになると思うよ。6年間のヘビメタ騒音で、働けないからだになる。働ける人は、それがわかってない。やられてないからな。どれだけ、あの態度と感覚で鳴らされることがつらいか、わかってない。つらいというより、からだの反応としてそうなる。ぜーぜん、ちがう。よその人たち……ヘビメタ騒音が人生のなかで生じなかった人たちの理解しているヘビメタ騒音と、ぼくが実際に経験したヘビメタ騒音は、ぜーーーぜん、ちがう。ヘビメタ騒音が人生のなかで生じなかった人たちは、ぼくに対して、つねにまちがった前提でまちがったことを言っているんだよ。これだって、ほんにんはそんなつもりはないだろ。まちがった前提でまちがったことを言っているとは思わないだろ。たとえ、俺が「あなたはまちがった前提でまちがったことを言っている」と言ったって、理解しないし、認めない。その人にとっては、ヘビメタ騒音……聞いた話のなかに出てくるヘビメタ騒音なんて、そんなものなんだよ。けど、実際に毎日、時系列的にやられた、ぼくにとってはまったくちがうことなんだよ。ぼく人生のなかで15年間続いたことなんだけど、その人の人生のなかでは、聞いた話のなかに出てくる騒音でしかない。これは、体感がちがう。たとえば、ぼくにとっては、きちがいヘビメタが鳴っている1時間というのは、ものすごくつらい1時間なんだよ。何時間も続くとどうしても、眠れなくなって、次の日に影響をあたえるものなんだよ。さらされ続けたら、どうしても、意識や意志とは関係なく、からだにそういう影響が出るものなんだよ。けど、ほかの人は、知らないので、「意識や意志」でどうにかなると思ってしまう。影響をうける必要がないと思ってしまう。『影響をうけないぞ』と思えば、影響をうけないことが可能だと思ってしまう。そういうものでしかない。そういう話でしかない。けど、ちがうんだよ。