あのとき、あの子とつきあっておけばよかったというようなことが、うかぶ。ヘビメタ騒音がなければ普通に、普通の気持ちでつきあうことができた。ヘビメタ騒音で破滅破綻なのである。あれ、家に帰ればがんがん鳴っている状態というのを、ほかの人は経験してないんだよな。
ものすごい、状態なんだよ。それが、六年間、つみかさなったときの状態なんてほかのやつにわかるわけがない。わからなければ、「そんなのは関係がない」とさも、正しそうに言える。そういうことを言う人には、関係がないことだけど、俺には関係がある。自分の身に生じなかったからといって、どうして、エイリに関係がないことだと思うのだ? もちろん、エイリにも関係がないということを言ってるのだけど、「感覚」としては、「自分の感覚が成り立っているぞ。自分が経験しなかったから、影響のでかさがわかってない。不可避的な影響のでかさがわかってない。これ、ほんとうに、きちがい家族が鳴らしていると、影響をうける。不可避的に影響をうける。影響をうける範囲がわかってないだけだろ。わかってないやつ、経験がないやつに、わかったようことを言われる立場に「おちいる」といこうとだって、影響のひとつだよ。ともかく、こいつらは、ヘビメタ騒音の影響を過小評価している。あるいは、無視している。こんなバカなやつらに、「えそうなことを」を言われる立場に陥るとは……。だから、やめてくれと必死に叫んでいたのに……。きちがい兄貴部屋に行って、何十回もさけんでいたのに……。一日に、何十回も何十回もさけんでいたのに、きちがいが、無視しやがって。これが、きちがい親父の態度なのである。きちがい兄貴が、きちがい親父の態度で、無視した。こんなの、普通の人にわかるわけがない。親父の態度も、兄貴の態度も、普通の人にはわからない。きちがいだからな……。きちがいがどういう態度で、どういう感覚で、きちがい行為をするのか、ほかの人にはまったくわかってないんだよ。きちがいの意地がわかってない。きちがい家族が、「うちのなかで」どういう行為をどういう感情でどういう感覚でやるか、まってたくわかってない。そういうやつらが、えらそうなことを、俺に言ってくるんだよ。佐藤のように……。佐藤も、おなじことをされたら、働けないからだになる。あとユキオは、『(自分の容姿には自信がないけど)俺(ユキオ)なんて、結婚できちゃうんだからなぁ』なんてひとりごとのようにつぶやいていたのだ。(エイリさんにくらべて、自分は容姿がよくないけど、それでも、俺は結婚できた。俺のことを好きだというやつがいた。エイリは結婚してないんだろ。はははっ。ゆかいゆかい)ということだ。ユキオは、また、「そんなのがほんとうだったら、もっと、(エイリさんが)ぐちゃぐちゃになってるから、エイリさんが嘘を言っている」と思ったやつだ。ぐちゃぐちゃになっているはずのエイリさんが普通にしゃべっているので、嘘だと思ったわけだ。そして、「こんなひとにかかわるとたいへんだから、逃げよう」と思ったやつだ。きちがい兄貴にきちがいヘビメタ騒音でやられると、初対面のやつにこういう態度で、こういうことを言われるということになる。佐藤もユキオも、常識的な人だ。思慮ぶかい人間だ。思慮深い人間にすら、こういうことを言われる状態におちにいる。何度も繰り返すけど、佐藤もユキオもヘビメタ騒音の影響のでかさが、わかってない。どういうことになるのか、まったくわかってない。ただうるさい音がちょっと続いただけだ』と思っているみたいなんだよな。「そんなんじゃない」。けど、俺が「そんなんじゃない」とどれだけ言っても、つたわらないんだよ。これは、きちがい兄貴に言っていることが、きちがい兄貴に伝わらないということとは、ちがう。しくみがちがう。けど、つたわらいことにはかわりがない。