あいつらのほうが俺にひどいことを言っているのに……。ヘビメタ騒音で睡眠回路を破壊されていると、いろいろなところで誤解を受けるんだよな。二〇時間起きているような状態で、電話に出なければならなくなったり……。相手が気を使って、「かけなおしますか」と聞く場合だって、「それじゃ、深夜の三時にお願いします」とは言えない。言ったら? ことわられる。さらに、「非常識な人だ」と思われるかもしれない。俺の頭が、もやもやしているときに、むずかしいことやひっかけがあることを訊いてくるな。むずかしいことというのは、そこで判断してしまったら、あとあと問題が残るようなことだ。ひっかけがあることというのは、意識状態が低下しているときに訊かれると、ついうっかり、本音を言ってまうようなことろであって、なおかつ、本音が相手のボスにとって都合が悪いことだ。
ともかく、「ヘビメタ騒音で睡眠障害になった」と理由を言っても、相手は、わからないだろう。ヘビメタ騒音のすさまじさを知らない。きちがい兄貴のこだわりを知らない。きちがい兄貴の無視の度合いを知らない。ほんとうに、きちがいじゃなきゃああいうこだわりで、鳴らせない。しつこすぎる。みんな、俺が、ヘビメタ騒音にこだわっているような感想を持つかもしれないけど、ヘビメタ騒音にこだわって、ずっと鳴らしていたのは、きちがい兄貴だ。しつこさが想像できなくて、一四年間毎日という、期間の長さが与える影響のでかさが、自分こととしてわからない。わかるわけがない。かならず、佐藤のように誤解する。
それから、こういうことで困ってない人にはわからないかもしれないけど、ながい間やられて長い間困っている人は、いろいろなところで、不愉快なことに遭遇しやすい。適切な言葉がないけど、本来なら、かかわらなくてもいい人に、かかわる確率が高くなる。きちがいヘビメタをやられずに、普通の体力があり、普通の生活力がある状態なら、つきあわなくていい人と、遭遇する場合がある。なんていうのかな、きちがいヘビメタによって、普通の生活体力を奪われ就職できない状態だと、もしも、ヘビメタ騒音がなくて普通に生活しているならば、遭遇しなかったタイプの落とし穴にはまる可能性が高くなる。
どれだけ生活が破壊されるかわかってない。毎日のヘビメタ騒音で、どれだけ、こっちの生活が破壊されるか、みんなわかってない。みんなわかってない。わかってないところで、ものを言う。
これ、ほんとうに、きちがいおやじの頭がおかしいから、はんだごてのことで兄貴が学校でばかにされるということと、おなじなんだよな。きちがい兄貴の頭と、きちがいおやじの頭が同じ。きちがい兄貴のこだわりときちがいおやじのこだわりが同じ。きちがい兄貴の頑固さと、きちがいおやじの頑固さが同じ。こだわりや、頑固さが、ほかの人にはわからない。「きちがい的なこだわり」だから「きちがい的なこだわりを持った家族」がいないひとにはわからない。根本からわからない。同じ家で生活してないとわからない。「よそ」で、「きちがい的なこだわりを持った人と」であったということと、「きちがい的なこだわりを持った人と一緒の家でくらしている」ということのちがいがわからない。根本からわからない。根本からわからない人が、人の話を聞いて想像した場合、想像して思い浮かべることと、家のなかでの現実が、大きく乖離してしまう。「理解した」と「経験してわかる」ということが、ぜんぜんちがう。