むかし、台所においてあったフライパンがひどいことになっていて、不燃ゴミに出したら、資源ゴミだろという感じで、ダメダシ・シールを貼られたので、持ち帰ってきたことがあった。それは、五月か六月なんだけど、それ以降、ずっと、袋に入れたまま、置いておいた。で、ここは、ネズミが出る場所の前なので、さわる気がしなかった。これから、フライパンを洗う。ひとつスポンジたわしを犠牲にすればたぶん洗える。
スポンジたわしは古いやつでいい。栄養の入った油にカビがはえたという感じなんだよな。あれは、洗えばおちる。二重に袋に入っていたから、ネズミ関係のばい菌はついてないと思う。栄養の入った油というのは、たとえば、肉を焼いたあとの油だ。
このあいだバルサンをやってから、時間がたったので、ほんとうはあんまりいじりたくないけど、しかたがない。
風呂場で洗うしかない。
* * *
サイドボードの上に食器棚がのかっているのだけど、サイドボードの後ろにある壁にネズミが出入りできる穴があいているようなのだ。サイドボードは五センチぐらいの脚がついている。この脚は、四本ついているわけではなくて、平行に二本の板がついているような脚だ。畳の上とこの脚のあいだの空間にアクセスできない。あそこにネズミが入ってしまうと、もう、手が出せない状態になる。このサイドボードはむかしからあったもので、ぼくとしては思い出の品だ。だって、ほんとうに、サイドボードの表面を背にして、ぼくはこたつの前に座っていた。たぶん、ぼくがうまれる前からあるんじゃないかな。いまはもう、ネズミが出てくる気持ち悪いサイドボードだよ。こたつもないしな。まあ、ネズミが出る家にこたつがあったらそれはそれで大問題だ。ともかく、親父がネズミをおびき寄せたのに、俺が全部処理しなければならないことになっている。
ともかく、あの中に入っているものは全部すてて、食器棚のほうもなかのものは全部すてて、サイドボードを動かして、壁にパティをつけなければならない。
『おかあさん、このサイドボードのところからネズミが出るようになっちゃったんだぜ』と俺以外だれもいない居間で、ぼくがつぶやくはめになった。