入試の時と同じ気持になる。入学試験の、午前一一時の気持ちになる。前日ヘビメタ騒音にやられていたときの入学試験中、午前一一時の気持ちになる。入学試験の時、きちがいヘビメタ騒音で苦しかった。あの感じになる。むなしい感じになる。睡眠科でどれだけ話をしても、ヘビメタを鳴らした当の本人である兄貴は、……その場に……いない。
相手が不在のなかで、当時ああだったこうだったという話をしなければならなくなる。過去のこと? いま俺が、睡眠科に行かなければならないのは、いまのことじゃないか。いま、俺が睡眠相の問題で困っているんじゃないか。いまの問題じゃないか。相手不在……。過去の問題。いま、そんなことをどれだけ言ってもしかたがない……。あのね、あのね。鳴らしている当時、どれだけ本人に言ってもしかたがなかったんだよ。
これ、本当に、鳴らしている当時一四年間、「過去のことだからしかたがない」というような態度で、ずっと鳴らす。鳴らしている当時。やめようと思えばやめられたとき、まるで、過去のことだから、しかたがないというような態度でずっと鳴らしてきた。一四年間。毎日。そういう状態で話が伝わらない。本当に、自分がちゃんと静かにすることは、まったく考えてない。想定外の出来事。過去のことだから、今更どうしようもないこと……これが、きちがい兄貴が現在進行形でやっているときの態度だ。
で、三年間、親父が毎日曜日、一年間に五五回、兄貴に注意をしたかというと、一回もしてないから。あの時は、俺に怒ってた。「なっちゃったらしかたがない」「自分で兄貴を静かにさせることができないのだったらしかたがない」「全部やめろと言うわけにはいかないだろ」「裁判なんて起こせるはずがないだろ」……こういうことしか言わない。俺にこういうことを言って、二階に行って、兄貴に注意しようとしなかった。
これが、親父の態度なのである。
ヘビメタ騒音のことは、一切合切心配しないのに、……俺にとっては毎日、生きるか死ぬかの問題なのに……ヘビメタ騒音のことは、一切合切かかわらないで、それで、入試当日に「財布を持ったか」と心配すると、心配してやったことになるのである。俺の入試に関心があったことになってしまうのである。三年間、ほったらかしで。俺が、家族会議家族会議と、言って、親父と兄貴を交渉のテーブルにつけるということが、ずーーーっとできない。……できない。
中学三年生の、入試一週間前、四日前まで、ずっとできない。兄貴が加わったのは、もっとあとか。二階で鳴らしているのに、注意しに行かなかったじゃないか。俺が、兄貴に「下に来い」と言って、下にやっと連れて来て、それで、兄貴に、つぶやくように「静かにしてやれ」と言っただけだ。その前に、俺がさんざん言っている。兄貴は全部、無言だよ。